いま語りたい映画(2020年1月)


混成アジア映画研究会のメンバーが「いま語りたい映画」を紹介します。

積極的に紹介したい作品だけでなく、問題含みなので紹介したいという作品も含みます。国別に並べていますが、語りたい国で分けているため、制作国で分けているとは限りません。

新作・旧作・未公開作を問わず「いま観たい/語りたい映画」を選んでいます。過去の「いま語りたい映画」重なっている作品があります。
2019年7月の「いま語りたい映画」
2019年1月の「いま語りたい映画」
2018年7月の「いま語りたい映画」
2017年9月の「いま語りたい映画」
2017年6月の「いま語りたい映画」
2017年1月の「いま語りたい映画」
2016年9月の「いま語りたい映画」

※本リスト公開後に日本で公開が決まった作品については、見出しを公開時の邦題に書き換えています。ただし「⑦日本での公開」は本リスト公開時の情報のままにしています。

凡例:邦題(仮題あり)、①原題(和訳)、②英題、③監督名、④制作年、⑤制作国、⑥使用言語、⑦日本での公開


フィリピン

Between Maybes~きっとひとりじゃない
元子役で最近落ち目のヘーゼルは全てから逃げ出したくなり、たどり着いた佐賀県でルーイと出会う。ルーイは子どもの頃から両親と離れて日本で暮らし、大学で学ぶ夢を諦めて日々を過ごしていた。スター女優と学者の可能性だけの存在でしかない2人が、恋人の可能性だけの関係で過ごすうちに、それぞれの可能性を現実のものにするために歩み始める。佐賀に焼き牡蠣を食べに行きたくなる。(山本)
①②Between Maybes(可能性どうし)、③Jason Paul Laxamana、④2019年、⑤フィリピン、⑥フィリピン語、日本語、⑦未公開

七番房の奇跡
同名の韓国映画のフィリピン版リメイク。知的年齢が6歳の父ホセリトが殺人の容疑で逮捕・収監され、6歳でしっかり者の娘イェシャに会わせるため、同房の仲間たちがイェシャの潜入作戦を展開する。ストーリーは韓国版とほぼ同じだが、終盤でフィリピンらしさを踏まえて韓国版とあえて変えた場面が見どころ。(山本)
①②Miracle in Cell No.7、③Nuel Naval、④2019年、⑤フィリピン、⑥フィリピン語、⑦未公開

こんにちは、愛、さようなら
香港を舞台にしたフィリピン人移民の恋愛と家族とキャリアの選択の物語。同じパートナーどうしでラブコメを何作も撮り続けるフィリピンで珍しくパートナーを組み替えて撮ったラブコメ。結婚まで相手に指一本ふれない役柄で大ブレークしたアルデンがプレイボーイの「黒アルデン」を演じ、フィリピンのラブコメに新しい物語をもたらした。(山本)
①②Hello, Love, Goodbye、③キャシー・ガルシア・モリーナ(Cathy Garcia Molina)、④2019年、⑤フィリピン、⑥フィリピン語、広東語、英語、⑦未公開

愛について書く
ラブコメ命の女性作家。映画の脚本が採用に、ただし別の脚本家と組んで再提出が条件。組んだ男はインディー至上主義の脚本家。意見をぶつけながらそれぞれの恋愛経験と恋愛観が明らかになっていく。脚本の完成のために2人はバギオからサガダへ。『運命というもの』の影響力を改めて実感。(山本)
①②Write about Love、③Crisanto Aquino、④2019年、⑤フィリピン、⑥フィリピン語、⑦未公開

トリプル・トラブル:つかまえた!
上院議員による武器密売。証拠を掴んだ警察幹部が口封じのため殺される。濡れ衣を着せられ指名手配されたアポロは、殺された警察幹部の娘トリシアと協力して武器密売の証拠を探す。ストーリーに多少の粗があるけれど勢いは十分。何よりもココ・マルティンのゴージャスな女装とジェニリン・メルカドの鬼瓦権蔵のような男装が見逃せない。(山本)
①3Pol Trobol: Huli ka Balbon!、③Rodel Nacianceno、④2019年、⑤フィリピン、⑥フィリピン語、⑦未公開

タイ

ディウ
イ・ビョンホン主演の韓国映画『バンジージャンプする』をもとにしている。オリジナルでは大学生の男女の恋愛→教師と高校生の男性同士の恋愛だが、タイ版では高校生の男性同士の恋愛→男性教師と女子高校生の恋愛に置き換えられていて興味深い。韓国版で描かれた同性愛への徹底的な敵意や迫害はタイではピンとこないためか。最後にバンジージャンプする悲しい結末は同じ。画家として活躍する現役大学生(シンラパコーン大学)で映画初出演のヒロインが圧倒的に輝いてみえる。(平松)
①ดิว ไปด้วยกันนะ(ディウ 一緒に行こう)、②Dew、③チューキアット・サックウィーラクン(Chookiat Sakveerakul/ชูเกียรติ ศักดิ์วีระกุล)、④2019年、⑤タイ、⑥タイ語、⑦未公開

ハッピー・オールド・イヤー
「断捨離」がテーマ。家を出た夫やかつての幸せだった時代の家族の思い出が残っている家具などを捨てたくない母親と、「お父さんはもう戻ってこないのよ」と全てあっさりと捨てようとする娘との親子の衝突が描かれている。ヒロインは『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のチュティモン(愛称:オークベープ)。近藤麻理恵の『人生がときめく片づけの魔法』も登場する。(平松)
①ฮาวทูทิ้ง..ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ、②Happy Old Year(オリジナルタイトルはHow to Ting(捨て方))、③ナワポン・タムロンラタナリット(Nawapol Thamrongrattanarit/นวพล ธำรงรัตนฤทธิ์)、④2019年、⑤タイ、⑥タイ語、⑦未公開

ベトナム

クマーントーン
クマーントーンとはタイのホラーでお馴染み、死んだ胎児に金箔を貼り付けた呪物。この呪物を得るためにメコンデルタで起きた連続殺人事件を元にした実録&南洋邪術ホラー。オリジナル版は検閲に通らず上映中止に。修正後、タイトルも監督も変更され、半年遅れで公開されるも、話題を呼び、ヒット。ベトナム国外での公開も始まっている。監督はあの食人ホラーの問題作『KFC』のレ・ビン・ザン。(坂川)
①Thất Sơn Tâm Linh、②Kumanthong、③レ・ビン・ザン(Lê Bình Giang)、④2019年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開

ゾン
第24回釜山国際映画祭、ニュー・カレント賞(最優秀新人作品賞)受賞作にして、フイ監督の長編デビュー作。サイゴンの裏通りを舞台に、宝くじの番号選び屋を生業とする少年ゾンとホームレスの子供たちを主人公にした、路上映画。暴力シーンをカットせず、映画局の許可を得ずに、映画祭で上映したとして、製作会社は罰金の行政処分を受けた。(坂川)
①Ròm、②Rom、③チャン・タイン・フイ(Trần Thanh Huy)監督、④2019年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開

つぶらな瞳
『草原に黄色い花を見つける』ヴィクター・ヴー監督の最新作。原作は『草原に黄色い花を見つける』と同じく、人気作家グエン・ニャット・アインの小説で、てらいんくから翻訳本がある(加藤栄訳)。大ヒット中で、ベトナム映画の歴代興行収入トップの『ハイ・フォン』の記録に迫る。プロデューサーは『サイゴン・クチュール』のグエン・ケイ監督。(坂川)
①Mắt Biếc、②Blue Eyes、③ヴィクター・ヴー(Victor Vũ)、④2019年、⑤ベトナム、⑥ベトナム語、⑦未公開

インドネシア

二つの青い線
17歳のビマとダラはクラス中が認める仲良しカップル。ひょんなことからダラが妊娠し、二人は自分の成長と子への愛や責任との間で悩み葛藤する。貧しくも敬虔なイスラム教徒であるビマの両親と裕福で現代的なダラの両親は、それぞれ二人に異なる提案をする。果たして幼い二人はどの道を選択するのか。親は子をどう導くかを考えさせる名作。(西)
①Dua Garis Biru、②Two Blue Lines、③ギナ・S・ヌル、④2019年、⑤インドネシア、⑥インドネシア語、⑦未公開

サニー 輝ける日々
韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』のインドネシア版リメイク。プロットやカメラワークは原作を踏襲しつつ、現在からスハルト体制末期の1990年代半ばを回顧する。主題歌は1994年のヒットソング「自由」(bebas)で、インドネシア語タイトルもこれにあわせた。民主化の記憶がない10代の俳優たちに1990年代半ばを演じさせることで、リリ・リザ監督ら40代以上の世代と現在の若者の断絶を埋めようとする。(西)
①Bebas(自由)、②Glorious Days、③リリ・リザ、④2019年、⑤インドネシア、⑥インドネシア語、⑦2019年広島国際映画祭

ラオス

永遠の散歩
マティー・ドー監督の3作目。監督自身が経験した母親の死と愛犬の死に着想を得た作品。人里離れた家に一人住まう男性は幼少期に母が結核に苦しみ亡くなった姿が忘れられない。過去と現在を行き来する力とともに霊と交信する力を得た彼は、過去の母の苦しみを軽減しようと奔走する。善行と信じる行為は果たして善行であるのか。ラオスにおける仏教観、死生観を描いた作品。(橋本)
①ບໍ່ມີວັນຈາກ(1日たりとも頭から離れない)、②The Long Walk、③マティー・ドー(Mattiie Do)、④2019年、⑤ラオス、⑥ラオス語、⑦2019年

遠く離れた故郷
Lao New Wave Cinemaの一翼を担うサイソンカム監督の短編映画。アメリカ育ちのラオス人ジェームズは、「故郷に帰りたい」という父の願いを叶えるために父の遺灰を持ってラオスを訪ねる。親戚からお金をせびられないよう母親に忠告を受けていた彼は、親戚と深く関わらないよう心を閉ざした行動をするが、彼を迎えに来た青年ジョイや村の親戚たちと接するうちに心境の変化が現れる。(橋本)
①ກັບບ້ານ(帰郷)、②A Long Way Home、③サイソンカム・インドゥアンチャンティー(Xaisongkham Induangchanthy ໄຊສົງຄາມ ອິນດວງຈັນທີ)、④2017年、⑤ラオス、⑥ラオス語、⑦2018年

恋の賞味期限
アニサイ・ケオラ監督初の長編ラブ・コメディ。ある日突然カップルの別離日を予見する力を持った男性カイは、恋人と別れた後に自分を見直す旅に出る。旅に強引に合流する女性クアンはカイの小学校時代の同級生だと名乗るが、カイはまったく覚えがない。カイの親友モーンも加えた三人の奇妙な旅の中で、それぞれが賞味期限のない永遠の愛を見つけていく。(橋本)
①ໄຂ່ຂວັນ/ມຶ້ຮັກໝົດ(ໃຈ)(カイ・クアン/愛の失効日)、②Expiration Date、③アニサイ・ケオラ(Anysay Keola ອະນິໄຊ ແກ້ວລາ)、④2019年、⑤ラオス、⑥ラオス語、⑦未公開

白鳥と亀
ラオスを代表するコメディ映画の名手ジア・パシフィック監督の3作目。タイトルはラオスの有名な民話「白鳥と亀」(もしくは「空飛ぶ亀」)から取られているが、話の筋は民話に沿っていない。ニックネームがホン(白鳥)の女性とタオ(亀)の男性の物語。慈愛に満ちたホンのドキュメンタリー番組を作って欲しいと依頼を受けた広告代理店の社員たちが高額報酬を目当てに奮闘するラブ・コメディ。(橋本)
①ຫົງຫາມເຕົ່າ ຂ້ອຍຕົວະເຈົ້າ ເຮົາຮັກກັນ(白鳥の亀への忠告 僕は君に嘘をつく 僕らは相思相愛)、③プムサナ・シリヴォンサ(Phoumsana Sirivongsa ພູມຊະນະ ສິລິວົງສາ)/通称ジア・パシフィック(Jear Pacific ເຈ້ຍ ປາຊິຟິກ)、④2017年、⑤ラオス、⑥ラオス語、⑦未公開

マレーシア

動機
マレーシア北部の田舎街で少女が失踪する。事件解決のために首都から呼ばれた女刑事は少女の父親に目をつけるが、捜査は妨害を受ける。マレーシアに登場した女刑事もの。ナディア・ハムザ監督は満を持して『細い目』のシャリファ・アマニを主演に据えた。罪深い男たちをあぶりだすにとどまらないラスト・シーンまで緊張が続くサスペンスは見ごたえあり。(山本)
①②Motif、③ナディア・ハムザ、④2019年、⑤マレーシア、⑥マレー語、英語、タイ語、⑦未公開

MはマレーシアのM
2018年5月の政権交代で首相に返り咲いたマハティール首相の選挙運動期間から首相就任式までの様子を、マハティール首相の孫娘のイネザが密着して撮影したドキュメンタリー。マハティールのことよりもマハティールを支え続けた妻シティ・ハスマに目が行ってしまう。(山本)
①②M for Malaysia、③Dian Lee、Ineza Roussille、④2019年、⑤マレーシア、⑥マレー語、英語、⑦未公開

トンビルオ! 密林覇王伝説
キナバル山を臨むボルネオ島サバの密林の守護者トンビルオのヒーロー・アクション。2018年の総選挙の直前に公開されて大ヒットになった。半島部マレーシアの観客から見れば異国情緒に満ちたヒーロー・アクション。サバの観客から見れば、登場人物がみな半島部の言葉を話すのでサバらしさが感じられず、それゆえに制作意図と関係なく半島部とサバの関係が重なって見えてくる。(山本)
①Tombiruo: Penunggu Rimba、③Seth Larney、④2017年、⑤マレーシア、⑥マレー語、カダザンドゥスン語、英語、⑦2019劇場公開、DVD

(このページは不定期に情報を更新します。)